Brachyspira 〔腸管スピロヘータ〕

Brachyspira 〔腸管スピロヘータ〕
便
染色像
グラム陰性桿菌(Gram Negative Rod)
染色の特徴
  • 細く非常に長いGram陰性らせん桿菌
  • サフラニン液でもっても染色性はよくない
  • ゴミではない
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: 経過観察
抗菌薬の待てない人: CFPX OR AZM OR MNZ
ポイント
  • 便からの検体
  • 元々は獣医学領域で問題になる菌であり,豚,犬,猫,げっ歯類,霊長類の感染症として同定されたものである.これらの動物が腸管スピロヘータになると下痢により栄養不良を起こしたりして経済的な打撃が発生する.そういった認識であった.
  • 人間の便のコロナイズしていることが判明したのは17世紀ごろである.その後,研究は急速に進み,コロナイズの割合が多いのは,発展途上国,ホモセクシュアル,HIV感染などが言われており,西洋諸国では軒並み割合が低い.が,その割合はあまりにバラバラで,日本人に当てはめて良いもんか悩むものばかりである.(1900年台シカゴは健常人の28%,西アフリカでは100%近く,オーストラリアのアボリジニの子供では32.6%,そうでない子供は1.2%だが,全員有症状であったようだ.)[1]
  • 上記のように,健常人でもかなりの割合でコロナイズが確認されていることから,『スピロヘータの存在』は『臨床的感染症』とは言いがたい.
  • 腸管スピロヘータとして分離される菌種はほとんどがBrachyspira aalborgi と Brachyspira pilosicoliである.特に後者はホモセクシャルで割合が高い.
  • どちらも偏性嫌気性で,Brachyspira aalborgi は2週間, Brachyspira pilosicoliは6日の培養が必要となる.が,普通のLabo での同定は難しい(経験談)
  • 抗生剤感受性はceftriaxone,chloramphenicol,meropenem,metronidazole,tetracyclineでおおむね良好.キノロンやマクロライドには耐性が多い.[2]
  • 多くのプレゼンテーションは原因のはっきりしない慢性下痢,慢性腹痛であるが,小児では大事に至ることもある(下痢だけでなく,嘔気も出現し,栄養摂取障害から成長に支障をきたす症例もある.)
  • 治療への反応性はさまざまながらmetronidazole 500mg で10日間というのがポピュラーながら,確たるエビデンスはないし,良くなるとも限らない.[3]
参考文献
  1. [1]  Ger Med Sci. 2010 Jan 7;8:Doc01. doi: 10.3205/000090.
  2. [2]  Antimicrob Agents Chemother. 2003;47(7):2354-7. DOI: 10.1128/AAC.47.7.2354-2357.2003
  3. [3]  Dig Dis Sci. 2000;45(5):1006-10. DOI: 10.1023/A:1005597729899
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グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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