Clostridium tetani〔破傷風〕

Clostridium tetani〔破傷風〕
膿汁
染色像
グラム陽性桿菌(Gram Positive Rod)
染色の特徴
  • やや細く,両端に行くに連れて更に細くなる
  • 通常は菌体の端っこに芽胞を形成するが,この例では中央に作っているように見える
  • 紫色が抜けている部分が『芽胞』で,染色液の染みこむ隙間も無いほど高密度な細胞壁のため,こう見える.(参考画像)
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: MNZ OR PCG
抗菌薬の待てない人: (複数の嫌気性菌感染が疑われる場合など):MEPM
ポイント
  • tetanusは〈つっぱる〉〈緊張する〉という意味のギリシア語:tétanosに由来する。紀元前4~5世紀にはすでにヒポクラテスによる記載があるし,1809年にはチャールズ・ベルにより破傷風で苦しむ患者の様が絵画となっている.古くからある病気でありながら,その死亡率は未だに高く,報告によっては15%を超える.病原性はBacteriaそのものよりも,産生する神経毒(テタノスパスミン)によるもので,自然界に存在する毒素としてはボツリヌスに次いで最強の部類に入るものである.
  • 末梢神経などの軸索から逆行性に中枢神経に到達すると、神経終末に結合、抑制性の神経伝達物質GABAなどを遮断する。この輸送される期間が潜伏期間となる。中枢での抑制が効かなくなれば筋強直・痙攣を誘発する。これらの症状は頭頸部から出現し、次いで全身性に見られるようになる。そのため、初期症状としては開口障害(牙関緊急)・痙笑が重要である。交感神経症状は数日して出現し、高体温・頻脈・高血圧などの交感神経亢進症状が見られる.
  • 治療を適切に行っても、逆行性にテタノスパスミンは移動を続け、1~2週間は症状が悪化を続けることが多く、場合によっては4~6週間に渡り症状が持続、後遺症として残存してしまう事もある。テタノスパスミンは一度作用部位に到達するともう遊離しない。新たな神経軸索の形成を待つ他ないのである。
  • 臨床的には外傷との関連がもっとも多く取りざたされるものの,いわゆる『土や錆びた金属に依る汚染のある穿通外傷』に入らないものに熱傷・壊死性のヘビ咬傷・中耳感染症・出産・筋肉注射・手術などをきっかけに発症することもある.が,半数の受傷機転は室内発生あるいはそこまで大きなものではなく,『特別な処置は不要』と判断されていたとされる.[1]
  • そして15~25%では外傷歴が確認できず,感染巣そのものの指摘が出来ない場合も10%弱程存在する.
  • 項部硬直,咽頭痛,開口障害が初期症状として捉えられることが多く,外傷が確認出来たなら,受傷から3~21日での発症となっていることがほとんどである.[2]
  • 病型は大きく4つに分類され,全身の筋肉が毒素の影響を受けるgeneralized tetanus,毒素量が少なく,局所の筋肉のみが影響されるものをlocal tetanus,その中でもgeneralizedに移行する確率の高い例外的なものとしてのcephalic tetanus(脳神経が影響されるもので,この場合には弛緩性麻痺となることもある),最後が世界の破傷風死亡の50%を占めるTetanus neonatorumである.
  • 治療の戦略は3本の大きな柱ががあり,『体内からの病原体の排除』,『体内の毒素の中和』,『中枢神経系のダメージの最小化』である.
  • 使用される抗生剤は従来PCGが最多であったが,テタノスパスミンと同様にGABA受容体を拮抗する作用があるとされ,[3]第一選択としてはMNZが良いとする専門科もある.Erythromycin, tetracycline, chloramphenicol, clindamycinも使用可能である.
  • 痙攣の制御も様々な方法論が存在するが,なにより破傷風は『ほぼすべての人で予防可能な疾患である』という点を強調しておく.『嫌気性感染が発生しうる外傷』ではもれなく破傷風トキソイドが適応となり,中でも『十分な洗浄・デブリが即時的には困難である』場合には破傷風グロブリンも必要であろう.[4]
参考画像
参考文献
  1. [1]  Br. J. Anaesth. (2001) 87 (3): 477-487.
  2. [2]  Crit Care Med 1979; 4: 176–81
  3. [3]  JAMA 1945; 127: 217–9
  4. [4]  Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of infectious disease 9th edi
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何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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