第110回医師国家試験お疲れ様でした.
平成28年2月6~8日にかけて3日間の過酷な戦い.管理人は二度とやりたくないと思います..
今回の国家試験でGram染色をそのものずばり聞いてきた問題は1問だけでした.
なので,ひときわ掘り下げて解説しましょう!
問題概要
110D-22 臨床問題
76歳男性 COPDあり(10年前)LAMAならびにSABA導入済み.喫煙は20本×46年.
主訴:発熱・膿性痰 Vitalは発熱・頻脈・頻呼吸がPositive
呼吸音は両側wheezesのみ
血液検査では炎症反応ならびにWBC左方移動が読み取れる
胸部Xpは右下葉が少し怪しい?かな?くらい.
ここでの喀痰Gram染色で,以下の様なものが見えています.菌名は?という内容でした.
a. 腸球菌
b. 肺炎球菌
c. 化膿性連鎖球菌
d. 黄色ブドウ球菌
e. Moraxella catarrhalis
病歴から肺炎はかなり疑わしく,患者背景にはCOPDがある.その方での喀痰です.見え方は,Gram negative cocciでよさそうですね.
結論から言ってしまうと,答えは E です.他の選択肢,全部Gram positiveですから.この菌に関してはページがあります.ただ,リアルワールドではここから鑑別の問題になります.特にGram染色に関したところで言うと,
・GNCに見える,他の起因菌はあり得るか.
Moraxella catarrhalisに似た形態を持つ菌,どれだけ挙がりますか?管理人の経験からは,以下が可能性があります.
脱色しすぎた肺炎球菌
最もよくあるエラーです.ランセット型(縦長に配置した)球菌なのであれば,染色し直すのも良いでしょう.
Acinetobacter属:形態学的にはMoraxella catarrhalisと区別は不可能な多剤耐性菌です.また,夏場はとくに劇症型の市中感染起因菌として知られ,僕も一人悔いの残る結果になりました.院内あるいは夏場の市中で超重症であれば,鑑別が必要です.比較的貪食されないのが特徴ですが,正直見慣れないと解りません.こんな写真になります.コチラに関してはページも症例もあります.髄膜炎菌:あまり知られていませんが,髄膜炎菌は肺炎の稀な起因菌となります.ただ,こちらも区別は形態学的には困難なので,渡航歴や接触歴,場合によっては既往歴から鑑別します.(補体欠損症がある場合,過去に複数回髄膜炎菌感染を起こしていたりします.)こちらも写真があります.近々ページも作成予定です.
といったところでしょうか.
この症例実は他にも味わい深い要素があります.
例えば胸部Xp.肺炎らしい浸潤影はほとんど見られません.なのに,病歴は肺炎で,喀痰からもそれらしい所見がそろっています.肺炎は胸部Xpでは診断精度として不十分なんですね.
きっと数日具合が悪くて,食事も飲水もままならず,感染も相まって脱水なんだろうなぁ,と思います.輸液したら,きっと明日には浸潤影がはっきりするのでしょう.このように,治療介入により脱水が補正されると,却って陰影は増悪することは間々経験します.国家試験でもこのような事例が取り扱われているのはより実践に近くておもしろいなぁ,と思う管理人でした.
ただ,二度とやりたくはない.
何かあれば!
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