Streptococcus pyogenes 〔A群β溶連菌〕

Streptococcus pyogenes 〔A群β溶連菌〕
膿汁
染色像
グラム陽性球菌(Gram Positive Coccus)
グラム陽性連鎖球菌
染色の特徴
  • グラム陽性球菌で、通常長い連鎖状に配置する。(6つ以上は普通連鎖する)
  • ブドウ球菌よりは小さい,らしい.
  • 膿汁中ではややバラけて見えている.
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: 壊死性筋膜炎であり,待てるヒトは存在しない
抗菌薬の待てない人: PCG+CLDM OR 必要に応じてMEPM・VCMなど
エラー注意
  • 治療には抗菌薬選択よりも壊死組織のデブリードメントが最重要である
ポイント
  • 壊死性軟部組織感染症からの検出検体のGram染色であり,戦慄すべき状況と言える.
  • 検体中にはRBCも含め血球成分は殆ど検出なく,一面のGPCが見られている.本菌の毒素により好中球が破壊あるいは遊走が阻害されている状況であろう.
  • NSTI:Necrotizing soft tissue infections は高度に致死性の高い疾患であり,複数菌の関与に一部Clostridiumの関与するType.1,GASをトップとする連鎖球菌が主役のType.2,V. vulnificusなどの水系のGNRが関与するType.3に分類されるのが近年の分類のようである.[1]
  • 『皮下組織の部位どこかに壊死組織を含有する感染症』と定義され,典型的には進行の早いものであるが,中には潜行性に進むものもあり,それが診断の難しさにワをかけている状況であろう.[2]
  • クラシックな診断手法としてLRINEC score:Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitisがあり,要はCRPやHbなどのLabo dataで壊死性筋膜炎のスコアリングを行うというものである.[3]
  • 上記は陽性適中率(PPV)が92%、陰性適中率(NPV)が96%とされているものの,的中率とは『適切な事前確率の患者』で試算して始めて意味のある数字となるため,これを適用し,採血を行う患者はある程度妥当に選ばれないといけない.
  • もし診断がある程度以上疑わしくなったら,早急にデブリードメントの手配をするべきである.デブリードメントに至った時間と予後には相関関係があることもすでに示されている.[4]
  • そして入院になった時の状況から,死亡率を推算し,積極的なデブリードメント(アンプテーションなど)を行うべきかの判断の一助とする研究も成されている.[5]
  • NSTIはある程度稀な疾患ではあるものの,ERなどをしていれば『忘れた頃に』というくらいの頻度ではやってくる疾患である.[2]がよくまとまったレビューであるので,存分に備えてほしい.
参考文献
  1. [1]  Curr Probl Surg. 2014 Aug; 51(8): 344–362
  2. [2]  Clin Infect Dis. (2007) 44 (5): 705-710.
  3. [3]  Crit Care Med. 2004 Jul;32(7):1535-41.
  4. [4]  Ann Surg. 1995 May; 221(5): 558–565.
  5. [5]  Surg Infect (Larchmt). 2009 Dec;10(6):517-22.
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何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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