Streptococcus pneumoniae〔肺炎球菌〕

Streptococcus pneumoniae〔肺炎球菌〕
末梢血スメア
染色像
グラム陽性球菌(Gram Positive Coccus)
染色の特徴
  • 小さいが,WBC内に貪食された連鎖球菌を多数認める
  • 血液培養検体ではなく,末梢血塗抹である
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: 重症敗血症が示唆されるため,待てる状況ではない
抗菌薬の待てない人: CTRX OR VCM
エラー注意
  • 作業工程でコンタミネーションすることもあるので,臨床状況とよく検討する
ポイント
  • 末梢血のバッフィーコートを直接塗抹染色した検体である.恐るべきことに培養処理を行う前の検体ですでに双球菌が確認できる.(参考画像で答え合わせ)このように末梢血スメアでの菌体確認のためには血液1mlあたり4万以上の菌量が必要であるとされている.[1](通常,血液培養が陽性となるような患者であっても,菌量は1mlあたり10コ程度であるので,凄まじい菌量であることがわかる)
  • ガチンコの感染症であれば非常に重篤である事が通例であるのだが,そうでない場合はいくつかのパターンが知られており,最も多いと思われるのは血液塗抹の作業中にプレバラートに汚染菌が付着することである.多くの場合はGPCで,細胞外に一塊となっている時は疑わしい.また,CVCなどからの逆血検体を採取した場合にはカテーテル内にコロナイズした菌が確認できる事があり,カテーテル関連感染をいち早く発見する事が出来るかもしれない.(必ずしも確立された方法ではない)
  • このような形で末梢血で確認できる例は当然ではあるが非常に少数である,報告されているなかではどうやら肺炎球菌が最多であり,次いでKlebsiella pneumoniaeの報告が目立つ[2].その他珍しい例では黄色ブドウ球菌[3]や緑膿菌・セラチアの合同[4],BacteroidesやDiphteroid[5],Candida[6]等が挙げられる.
  • また,一般的でない細菌・真菌の他に末梢血スメアで確認できる感染症としては,マラリア・バベシア・トリパノソーマ・フィラリア・ダニ媒介性回帰熱[7]といったオドロオドロしい輸入感染症が並ぶ.
  • 本症例は脾臓摘出の既往のある方に発生したOverwhelming sepsisであり,一般的に死亡率が50~70%(しかも多くは24時間以内に死亡する)に達する非常に重篤な状況である.
  • OPSIは脾摘後2年以内の発症が最も多く,上記の死亡率であるため,ワクチンや予防的抗菌薬に関してもっと慎重なケアがなされるべきと思われるが,必ずしもそうされていない例を多数診る.交通外傷など計画的でない脾臓摘出の場合は特にそうで,あまり長期フォローにつながっていないフシがある.
  • ワクチン・予防的抗菌薬・発熱時の推奨抗菌薬などがNEJMでまとめてあった.[8] 肺炎球菌, Hib, 髄膜炎菌・インフルエンザに対するワクチンが推奨され,投与タイミングはそれらのワクチン接種履歴・時期に依存する.
  • 肺炎球菌ワクチンはPCV13(プレベナー13)の投与とその後8週空けてのPPSV23(ニューモバックス)の投与が推奨となっている. Hibワクチンは成人や青少年では比較的少ないため, 全例の推奨ではないが,接種歴が確認できないなら接種が無難である. 髄膜炎菌ワクチンはメナクトラが使用可能となっているが,なにせ高い(病院によるが数万円自己負担)となり,日本ではあくまで稀なものであるため,患者と相談になるだろう.もし流行地域への渡航が頻回であるなら,ぜひ打つべきである. インフルエンザワクチンは細菌感染のリスクを上昇させるので毎シーズン推奨となっている.
  • 発熱ならびに予防的抗菌薬はまとめると膨大になりすぎるので,ぜひ文献8を参照いただきたい.
参考画像
参考文献
  1. [1]  JAMA. 1981;245(4):357-359.
  2. [2]  Blood 2013 122:1851
  3. [3]  Laboratory Medicine Vol. 21, No. 9 September 1990 579-81
  4. [4]  Korean J Clin Microbiol Vol. 13, No. 4, December, 2010 179-85
  5. [5]  The American Journal of Medicine Volume 85, Issue 1, July 1988, Pages 111-113
  6. [6]  Blood 2012 119:4822
  7. [7]  N Engl J Med 2013; 368:266January 17, 2013
  8. [8]  N Engl J Med 2014; 371:349-356July 24, 2014
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何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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