1歳児 ♀  Occult bacteremia

個人情報に配慮し,内容と一部の感情表現にフィクションを含みます.

主訴は痙攣発作でした.2月の非常に寒い時期であり,インフルエンザやRSによる気道感染が周辺の保育園では蔓延.熱性痙攣がもっとも多い時期でした.

患児は1歳半.病歴は簡単には以下のようになります.
入院前日夜から眠りは浅く,具合は悪そう.
朝保育園に行ったが,39℃の発熱指摘され,家に帰ってきた.
その後,熱性痙攣で泡を吹き,祖母がびっくりして救急要請.
救急車内では40℃の発熱がみられたそうです。
外傷歴等なし
去年も同じ時期に同じような痙攣をし、単純型熱性痙攣と評価されていたそうです。
保育園ではインフルエンザがナウい感じ
既往歴:特に既往はありませんでした。
アレルギー:なし
ワクチン:PCVHibともに4回接種しておられました。
身体所見は以下のようになります.
機嫌:悪い
診察所見: BT40.6℃ P233bpm
診察様子:泣いている
目:充血無し
頸部リンパ節:腫大なし
耳:両側鼓膜クリア
口:発赤軽度有り。白苔付着無し
肺:雑音無し
心:雑音無し
体幹:発赤なし

こんな感じで入院し痙攣の予防に座薬が使用されました.当日はインフルエンザ陰性でしたが,翌日にはA型が陽性化.保育園での流行もAとのことでした.

『まぁ,インフルエンザ→発熱→熱性痙攣でしょう!』

いわゆる『1元的な説明』の下、抗インフルエンザ薬の使用を開始したものの,その日のうちに検査室から報告が..

『血培,生えてますよ.』

『!?』

言ってみるとこのような細菌が1セット中1本から検出されていました.

Spneumoniae-Occult-Bacteremiaいやいや,GPCならコンタミでしょう!

でも検査室の人は無知な研修医に喰い下がります。
『でも、けっこう肺炎球菌がこんな形に見えたりするんですよね~。。』チラッ、チラッ
チッ!うっせーな!まぁ確かに、連鎖状ですし、一概にコンタミとも言えませんね。年齢も低いし、抗生剤行きましょうか。。』
そんなこんなでCTRXを開始しました.さて,この状況で,皆さんなら何を想定するでしょうか.僕は完全にコンタミネーションで、培養がCNSやら表皮ブドウ球菌だったら即座に抗生剤を中止してやろうと思ってました。。

 

 

 

数日後の培養結果はなんとマジモンの肺炎球菌!(PISP)いわゆるOccult bacteremiaの状態だったのです.
恐るべし細菌検査室!レンサ球菌を『真珠のネックレス』と表現したりするへんた変わった人に集まりかと思いきや、やはりベテラン!目が違う!
結局抗生剤は2週間存分に叩き込んで、患児は無事に帰りましたとさ。。

Occult bacteremiaとは以下の様な状態を意味します.つまるところ『菌血症ではないだろう,という状況で発生している菌血症』のことでです.

  • 小児の菌血症
  • 感染巣が不明
  • 元気そうに見える
  • 基礎疾患がない

この子の場合はA型インフルエンザを合併していた為,より重篤そうに見えたのでした.勿論,肺炎像等はありませんでした.

小児例ではこのような事例があるため,以下の様な場合では細菌感染を考慮し血液培養を採取すべきとされています.

  • ワクチン:PCV、Hibの無い時代のOBは85%が肺炎球菌、残りも10%がHib>であり、ワクチンの実施により大きくその数を減らした。このため、現代にあってはワクチンを接種していないことが大きなリスクとなる。
  • 年齢:Occult Bacteremiaは定義上36ヶ月までに生じるとされるが、低年齢であればそのリスクは上昇する.
  • 体温:39度を超えると大きくリスクが上昇する。
  • WBC:15,000をカットオフとした時が最も感度が良い。
  • Neut:10,000をカットオフとする.

大人と異なり,こんな状況でも!?という場面でも菌血症になってしまう子供.特に低年齢児では血液培養や抗生剤加療は閾値をいじる必要がありそうですね.

なお,この肺炎球菌は後日検査したところ,ワクチンでのカバーができていない莢膜抗原を有していました.今後、PCVの普及に伴い、日本での肺炎球菌の流行血清型は少なからず変化すると言われています。

対してHibの方はアメリカでも日本でも、早くも劇的な頻度の低下が見られています。副作用やらがとりあげられやすいワクチンですが、この2種は間違いなく打つメリットの方が大きそうですね。

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グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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