経過フォローの行い方:軟部組織感染編

  • 蜂窩織炎

診断&トリアージ

  • 概要

蜂窩織炎は真皮深層ならびに皮下組織をFocusとした感染症である.発生率は200/10万人・年であり,軟部組織感染では比較的コモンな位置にあると考えて良い.[1]
丹毒が若年者や小児に発生しやすいのに比べて高齢発症が多く,やや男性優位の疫学を持っている.[2]
診断に関してだが,蜂窩織炎と同様の局所および全身所見を呈する疾患は非常に多く,例によって常に非感染症との鑑別が第一となる.

  • 鑑別

蜂窩織炎のように『局所(この場合は皮膚や軟部組織)の炎症所見』と『全身性の発熱』を呈する非感染性疾患には
薬物反応,昆虫刺傷,痛風等結晶誘発性関節炎,接触性皮膚炎,スウィート病,うっ滞性皮膚炎がある.
また,感染性疾患としての鑑別は
・起因微生物による分類:Viral rash,帯状疱疹,皮膚炭疽,野兎病
・感染部位による分類:膿痂疹,丹毒,蜂窩織炎,壊死性筋膜炎,せつ・よう
という風にも分けられるだろう.

更に特殊なものとしてはToxic shock syndromeや動物咬傷(人含む)が挙げられる.

とは言え,幸い日本で野兎病や腺ペストを本気で見る機会は少ないと思われるため,次のトリアージでは一般的な皮膚軟部組織感染症を扱うものとする.

なお,局所所見が非常に大きな診断の手がかりとなるため,それを見つけられなかった場合には不明熱化することも多い.褥瘡などはとくにERでは見逃しになりやすいので注意を要する他,熱が先行し,後から皮膚発赤が出現してくる例も散見される印象がある.不明熱は日々のFocused physical examinationが大事であることはいつの日も変わらない.

  • トリアージ

トリアージ,すなわち重症度分類には長くEron分類が使用されてきた.(と,書いているが,管理人がその存在を知ったのは結構最近である.)

このような分類系において,蜂窩織炎であるとの診断が付いた後,入院帰宅の判断を行う.

しかしながら,CREST guidelineでも示されているこの表は,実はエキスパートオピニオンに基づくものであり,RCT等のいわゆるEBM的エビデンスには欠けている.

より適切な点滴治療適応,および予後予測という点ではStanderized early warning score :SEWSを補助的に用いたものが提唱されている.[3]

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/7/7d/Wellington_EWS_reference_table.jpg

Eron分類のエビデンスを出そうとして行われた研究と思しいが,実態としてCREST guideline通りの治療が行われている事が少なく,治療選択・予後予測としては不完全という結論を出さざるを得ない結果になってしまったようだ.この論文そのものも再検証が必要ではあるし,ガイドラインも改訂には至っていないが,これからはEron分類のⅠとⅡはほぼ同一として扱われ,Ⅲ以上ではSEWSを使用した重症度判定が主流となるかもしれない. 詳しくは下記のリンクを.元論文が全文フリーで読める.

ところでこのスコア,ERでパッと計算するにはちょっと不便だなぁ..

その上で,まずERで行うことは以下の3点で十分だろう.

深部組織感染症の除外:壊死性筋膜炎など,外科的デブリードメントが必要な症例をあぶり出す.そして,必要ならば外科コンサルトの上,施行する.

免疫不全疾患の把握:抗生剤の選択及び治療期間の目安となる情報である.具体的には糖尿病・末梢血管疾患・HIV・抗癌化学療法・肝硬変・脾臓摘出などである.

初期抗生剤の選択:上記を行った上で,抗生剤を選択する.話題となるのは『嫌気性菌カバーの必要性』および『MRSAカバーの必要性』である.

Gram染色の活かし方

正直血液培養でも生えない限り出番としては薄い.血液培養そのものも,陽性となるのは10%程度と言われている.皮下膿瘍等,密閉された明らかなFocusを認める場合には,そこの穿刺液は価値ある標本となる.

多くの場合,局所検体で見つかるのはGPCの類である.だが,表皮スメアは皮膚の常在菌を反映していることが多く,参考には出来ない.

経過フォロー

 上記スコアリングあるいはその他臨床所見において,『入院適応』とされた患者で,外科的デブリードメントや特殊な感染の想定が必要なかったもの対してのアプローチを主に記述する.
点滴静注が必要と判断された患者では,困ったことに決められた治療期間はない.少なくとも,JAID/JSC感染症治療ガイド2014には記載されていない.

だがそれ以上に,局所マネージメントが必要である.

  • 感染のエントリーサイトを見つけ,マネージメントする.(褥瘡や水虫,外傷はないだろうか)
  • 適切な鎮痛を行う.
  • 患部の挙上が出来るなら行い,安静を守ってもらう.
  • 発赤部位のマーキング.これは入院後の局所パラメータとして行う.
  • 下肢のものであれば下肢の径を測定しておくのも良い.

これらを行った上で,全身症状(発熱等)や局所所見を観察していく.もしも血液培養が生えれば,必要に応じて心エコーも必要となる場合がある.
患者が罹患部位を挙上した状態で安静を守ることができ,指示に従って処方薬の内服が可能であると考えられた場合は,個別に退院が検討されるべきであろう.
微生物学的検査に基づき,外来点滴抗生剤加療も選択肢に上るかもしれない.(あまり適応は多くないだろうが..)
糖尿病患者では退院しても短期での再受診・経過フォローが望ましいと思われる.参考文献では2~5日であり,当院では定期のDMフォローに合わせて行っているため,期間は特にない.
その他ニューロパチーや神経系疾患により感覚障害を有する患者に於いては患部(多くは足)の衛生管理,予防策が極めて重要となる.皮膚科・整形外科とのタッグがコレを可能にする.

1.McNamara DR Mayo Clin Proc. 2007;82(7):817.
2. Ellis Simonsen SM, Epidemiol Infect. 2006;134(2):293.
4.病棟勤務医の技術 ホスピタリスト養成講座 Sylvia C .McKean 日経BP
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何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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