Moraxella catarrhalis〔モラキセラ〕

Moraxella catarrhalis〔モラキセラ〕
喀痰
染色像
グラム陰性球菌(Gram Negative Coccus)
染色の特徴
  • 小型だが染色性はよい。非常に貪食されやすい。
  • 『ふくふくとした』と表現される(誰がし始めたのか知らないし、そんな擬音語聞いたことないが。。)双球菌。腎臓形、という連鎖形態をとる。
頻度
★★☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: ABPC/SBT OR CTM OR AZM
抗菌薬の待てない人: CTRX OR CTX
エラー注意
  • 形態学的にはNeisseria、Acinetobacterと判別は不可能であり、疫学、病歴から判断するしかない。非常に貪食されやすく、菌体は多くがWBCに貪食された状態で観察される。なにそれおいしいの?
  • 双球菌という形態。肺炎で多いという特徴から、脱色が不十分だと肺炎球菌と間々間違えられる。周辺のWBC核がしっかり脱色されているか観察されたい。
ポイント
  • 声門より上の上気道に常在するグラム陰性球菌。H.influenzaeと同様気道上皮が傷害され、正常な免疫が作動しなくなった気道に感染する。常在率は実は年齢にかなり依存し,あるデータでは小児期には50%近い常在率があるが,成人では5%程度となる.なお,60歳を超えると26%程度になるので,人間歳を取ると子供に戻るのである.[1]
  • 上記の例外となるのはCOPD患者で,ほぼ確実に存在している.この場合は通過菌という扱いになり,通過期間は1菌種あたりおおよそ1ヶ月と比較的短いサイクルで回転しているらしい.そして,別の血清型のMoraxella catarrhalisの獲得はCOPDの急性増悪に関与していると言われている.[2]
  • ヒト-ヒト間での伝播は医療施設内でよく知られており,意外なことに院内肺炎の起因菌としてある程度の頻度がある.が,基本的に基礎疾患のない場合に肺炎の起因菌となることは稀であることを強調しておく.(この菌による肺炎は80~90%が基礎疾患:特に呼吸器:のある患者に発生している.[3])
  • 粘膜面ではWBCを強力に誘導し,浸出液は強い膿性,また粘膜面の炎症像は非常に強いが,なぜか粘膜以下にはなかなか浸潤せず,骨髄抑制やAIDSなどが無い場合には深部感染を起こしにくい.[4]
  • 薬剤感受性は疫学に依る所が大きく、手強い地域ではほぼ100%CTRXしか効かない、なんてパターンもある。
参考文献
  1. [1]  J. Clin. Microbiol. December 1990 vol. 28 no. 12 2674-2680
  2. [2]  Am J Respir Crit Care Med. 2005;172(2):195.
  3. [3]  [Semin Respir Infect. 1989 Mar;4(1):40-6.]
  4. [4]  Lab Med. 2007;38:420.
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何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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