PIPC/TAZ, CAMにて肺炎加療後の肺炎に対し, ABPC単剤にて加療した77歳女性の一例

ドキドキしながらも, narrowな抗菌薬投与で改善を認めた症例を報告させてください.

ERより肺炎として入院になり, その日のうちに私の受け持ちとなった患者さん.
いつもどおりオーダーのチェックをしていると…

抗生剤のオーダーに
「ABPC」

思わず, 2度見しました.
えっ, えーびーぴーしー!?

後ろに「/SBT」の文字を何度も探しましたが, ありませんでした.
まだ研修医ですが, 今までABPCを使ったことがあるのは1度だけ.
比較的若く元気で, ベースの無い方で, Gram染色でGNDCの貪食像多数時に使ったことがあります.

今回は, この人77歳で, しかも脳梗塞や糖尿病ベースで, 1週刊前まで肺炎でPIPC/TAZ, CAMという最強コースを歩んだ人だったのです.

抗菌薬投与後でしたが, すぐに喀痰を出してもらいGram染色を確認に行きました.

S.pneumoniae pleuritis 1-1024x709

確かに膿性部分ではGPDCの貪食がある.
胸膜炎も起こしているし, 経過も急性. これは, 肺炎球菌っぽいかもしれない…
幸いには, この人を診に行くと, まだ待てそうな人だ.

そして,
ERでAMPC1本で入院させた先輩の男気を引き継ぎたい…

ということで, 抗生剤投与後6時間の時点でも抗生剤の効果判定のために喀痰Gram染色を行い, 菌量が減っていることを確認しました.

入院3日目にはCRP:20.49mg/dLと, 入院時(CRP: 0.91mg/dL)より上昇認めるもWBC: 10600と横ばいで, 急性の肺炎球菌性肺炎の治療経過としては納得できるものでした. 何よりも全身状態の改善を認めており, 経過観察することにしました.

そして入院day4より解熱. 血培陰性より経口薬にde escalation. 入院day6にはWBCの正常化を認め, 1週間の抗菌薬投与で治療しました.

確かに, より厳重な経過観察が必要にはなりますが, ベースがややこしくても, Gram染色にはっきり自信があれば, narrowな抗菌薬で大丈夫だなぁと, 実感した症例でした.

これ以来, ABPCを「漢のビクシリン」と呼ぶようになりました.

 

 

 

 

ちなみに, 以下が入院時所見です. 参考程度にどうぞ.

■現病歴
1周間前まで肺炎に対してPIPC/TAZ, CAMにて加療された. その後退院し, 入院前日18時頃より湿性咳嗽出現し, 入院当日7時には全身倦怠感を感じ, 湿性咳嗽の増悪を認めた. その際に38.0度の発熱があった. 朝食はとらずに, 訪問看護師が来た際に救急要請し, 当院搬送となった.
■ROS
(-): 鳥との接触, 温泉, 旅行, 羽毛布団, ペットとの接触, 喀血

■基礎疾患
60歳: 脳梗塞
65歳: 糖尿病
75歳: 認知症
※結核歴なし
■服薬歴
抗血小板薬, DDP-4, ビグアナイド, ベンゾジアゼピン, 便秘薬, PPI
■アレルギー
medicine(-), food(-), metal(-)
■家族歴
突起すべきことなし
結核歴なし
■嗜好歴
喫煙: 10本/日(20-50歳)
飲酒: 瓶ビール720ml/日(20-50歳)

■来院時身体所見
・Vital
BT: 39.5℃, BP: 205/102mmHg, Pulse: 61回/分, RR: 28回/分, SpO2: 97%(経鼻3L)
・General Appearance
weak, not sick
・胸部所見
肺音: 左下肺野にcrackles
深吸気にて咳嗽の誘発あり
■来院時検査所見
・血液検査
pH 7.480, PCO2: 34.6mmHg, PO2: 159mmHg, HCO3-: 25.5mEq/L, BE: 2.6mEq/L
GOT: 19 IU/L, GPT: 14 IU/L, LDH: 165 IU/L
BUN: 19.0mg/dL, Cre: 0.79 mg/dL
Na: 135mEq/L, Cl: 103mEq/L, K: 3.5mEq/L
CRP: 0.91mg/dL, WBC: 11800
・尿所見
肺炎球菌抗原(-)
レジオネラ抗原(-)
WBC, 細菌(-)
・胸部Xp
左中肺野にconsolidation. シルエットサイン陰性
・胸部CT
左S6にconsolidation
・Gram染色
Geckler 4
好中球(++), GPDC貪食像(+), GNR, GPR(一部認めるも貪食なし)

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何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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