Staphylococcus aureus〔黄色ブドウ球菌〕

Staphylococcus aureus〔黄色ブドウ球菌〕
血液
染色像
グラム陽性球菌(Gram Positive Coccus)
染色の特徴
  • グラム陽性球菌で、ブドウ状に配置する。
  • 血液培養では周囲にフィブリンのようなグラム陰性の粘液をまとう。(こともある)
頻度
★★★
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: CEZ OR (ABPC)
抗菌薬の待てない人: VCM±CEZ OR DAP
ポイント
  • 言わずと知れた血流感染の雄.米国の報告では,市中並びに院内感染での血流感染では大腸菌に次いで2位の実力を誇る.[1]
  • この症例はMSSAであるが,臨床的には感受性がわかるのはブドウ球菌検出からおおよそ1~2日あとのことなので,『血液培養にてブドウ球菌が検出!』というシチュエーションに対して解説をする.
  • ブドウ球菌の菌血症はMRSAなら23%もの,MSSAなら1.3%の死亡率となり[2],押しなべて3倍の入院期間と治療費となってしまう.[3] まずはブドウ球菌の菌血症とはそういった側面をもつ厄介な状況であることを感染症医ならずとも充分理解し,臨床に当たるべきであろう.
  • とは言え,まずは『真の菌血症であるか』を判断する.ブドウ球菌という見た目だけでは,コンタミが非常に高頻度な表皮ブドウ球菌であるか,コンタミのあまりない黄色ブドウ球菌であるかはわからない.同定結果が出るまでに,真の菌血症のリスクを問診し,菌血症ひいてはIEの身体所見を入念に検索すべきである.[4]
  • 項目としては最近の皮膚軟部組織感染,体内の人工物,遷延する発熱,腰痛などの有無と多岐に渡るため,上記の文献を参考にされたい.身体所見も同様であるが,こちらは眼底を含めた末梢塞栓像を文字通り探しにいかないと,多分わからない.
  • 真の菌血症のようだとなれば,血液培養を再検する.これで持続菌血症を検出できる.次に待つのは心臓超音波である.ここに関しても諸説あり,臨床的にIEの所見がなくとも,経食道心エコーでは15%程度に所見を見るとされる.
  • しかしながら,のべつ幕なしやるという訳ではなく,できればハイリスク因子を認めれば,というセレクションをかけたい.例えば,発熱が遷延するヒトや透析患者,血管内に人工物のあるヒトはかなりIEのハイリスクである.
  • IEでなくとも,ブドウ球菌は腰椎や脾臓などの臓器に遠隔病変を作りやすい.オーバー気味に見えても,そのような訴えが新規にあれば造影CTとしておくべきであろう.頭痛なら,頭部はMRIも考慮される.
  • そして最後にさしあたりの抗生剤を選ぶ.特段の禁忌がないのであれば,初期抗生剤はVCMとすべきであろう.なお,MSSAであった場合には初期治療にはCEZがあったほうがよいという研究は出てきつつあり,数日であれば両者併用も手段である.[5]
  • 上記のように,ブドウ球菌菌血症は発覚しただけでやることが非常に多い.それだけ死亡率も高く,患者の予後に直結する事象が多いのである.
  • コロニー写真を参考画像に入れておく.なお,近年は遺伝子学的手法により,mecAを直接検出することで,より迅速なMS/MR判定ができるようになりつつある.
参考画像
参考文献
  1. [1]  Clin Infect Dis. (2009) 48 (Supplement 4): S231-S237.
  2. [2]  Arch Intern Med 2002;162:2229-35.
  3. [3]  Arch Intern Med 2005;165:1756-61.
  4. [4]  JAMA. 2014 Oct 1; 312(13): 1330–1341.
  5. [5]  Clin Infect Dis. (2013) 57 (12): 1760-1765.
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何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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