Propionibacterium acnes〔プロピオニバクテリウム〕

Propionibacterium acnes〔プロピオニバクテリウム〕
血液
染色像
グラム陽性桿菌(Gram Positive Rod)
染色の特徴
  • 基本はGram陽性であるが,多型性を持つ.
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: PCG OR CLDM
抗菌薬の待てない人: VCM
エラー注意
  • 多くは皮膚常在菌を捕まえただけのコンタミネーションである.
ポイント
  • ニキビの原因として知られるグラム陽性菌であり,微好気性・嫌気性菌である.プロピオン酸を発酵し,エネルギー源と出来るあたりから命名されたようだ.
  • 侵襲性感染症の原因となることは基本的には稀で,皮膚に常在している以上,血液培養での検出は1setでは有意とは言えない.現に,500例以上のPropionibacterium血液培養陽性を集めた研究[1]では,臨床的に有意な菌血症と判断されたのは3.5%であった.判断基準は2set以上の陽性やその際の菌血症の所見などであったようである.
  • 一方,人工物に関連した整形外科領域での感染症には,比較的頻繁に起因菌として参加している.特に肩関節周囲の人工物感染症は他の部位と比して有意に関連が多い(3%程度)[2]
  • 抗菌薬の感受性は一般に良好で,PCGでも充分な治療効果が得られることが多いが,時に耐性であったり,複数菌感染の1員でしかなかったりすることもあり,βラクタマーゼ阻害薬配合のペニシリン等が実際は無難な選択肢となるかもしれない.
  • なお,興味深いことに,本菌は様々な膠原病的疾患との関連が指摘されている.
  • まずは慢性腰痛であるが,MRIで椎間板に変化のあった症例から,椎間板を手術的に採取して長期間培養とした所,高頻度(20%以上)に本菌が検出されたという報告がある[3].そしてそれを元に抗菌薬治療を行った所,プラセボ群と比べて有意な改善がみられた,とのことであった[4].『腰痛に抗菌薬』というのはまたなんとも乱用を招きそうなキーワードであるが,MRIなどで上記文献のエントリー基準にマッチした症例に関しては,施行する価値はあるのかもしれない.
  • また,サルコイドーシスのリンパ節から高頻度に本菌のDNAが検出されるとの報告もある[5].基本的には原因不明の疾患とされるサルコイドーシスも,ある程度は本菌の関与があるのかもしれない.
  • そして驚くべきことに関節リウマチとの関連もすでに指摘されている.弱毒菌で培養が難しい本菌であるが,こうしてみると医学の深い所に食い込んでいる.今後の展開が期待できる(?)微生物と言える.
参考文献
  1. [1]  J. Clin. Microbiol. April 2011 vol. 49 no. 4 1598-1601
  2. [2]  Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of infectious disease 8th edi
  3. [3]  Lancet. 2001 Jun 23; 357(9273):2024-5.
  4. [4]  Eur Spine J. 2013 Apr; 22(4): 697–707.
  5. [5]  J. Clin. Microbiol. January 2002 vol. 40 no. 1 198-204
URL :
TRACKBACK URL :

何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

osaka city university