Stenotrophomonas maltophilia 〔マルトフィリア〕

Stenotrophomonas maltophilia 〔マルトフィリア〕
血液
染色像
グラム陰性桿菌(Gram Negative Rod)
染色の特徴
  • 細長い小型のGram陰性桿菌(GNR-s)
  • 両端も細く、染色性もよくない
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: MINO
抗菌薬の待てない人: S/T OR Cefiderocolも期待される
カルバペネムはClass Bのβラクタマーゼをデフォルトで持っているため,効かない
エラー注意
  • Gram染色で腸内細菌との区別をしないといけない菌種の一つである.
ポイント
  • Stenos〔わずかな〕trophos〔栄養で生きる〕monas〔種族〕の中でmalt〔麦芽〕に親和性のある〔philia〕もの,という,低栄養要求性を体現したかのようなネーミングとなっている.かつてはPseudomonasと同属として分類されており,1993年にStenotrophomonasと分類され直した.
  • 人体には常在しない菌であり,無菌検体からの検出は確実に医原性感染を示唆する.肺炎が最多のFocusで,血流感染がそれに続くが,いかなる臓器もFocusとなりうる.[1] が,単純に呼吸器検体からの検出はBAL検体でも無い限りは定着菌であることが多い.VAPの起因菌として有名になったが,本菌による院内肺炎は晩期発症であり,多くは5日目以降の発症となる.[2]
  • 水回りであれば透析用水,消毒薬,手洗い石鹸,コンタクトレンズ洗浄液,製氷機,シンク,サラダなどあらゆるところに常在する.特筆すべきはプラスチック表面でのBiofilm形成能力であり,時に血管内デバイスの表面に複数菌でのBiofilmを形成する.[1]
  • 担癌患者,好中球減少が遷延しているもの,TPN管理をしているもの,中心静脈カテーテルが挿入されている患者で発症のリスクが高い.[1]
  • 抗生剤は上記のようにS/T合剤がFirst choiceであるが,その副作用や腎障害患者への適用に困難を抱える特徴から,依然として本菌は治療困難な病原体である.2023年に新たに発表されたレビュー[3]ではS/Tに代わる選択肢としてフルオロキノロン(その多くはLVFX)やテトラサイクリン系(MINOなど)が記載されている.ただ,キノロンは単剤使用での耐性化が比較的早期に起こることが知られており,血流感染や膿瘍などのように長期の治療を要する場合は併用薬を選出する必要があるであろう.なお,2023年末に日本での承認を取得したCefiderocolも有効な選択として期待される.
  • S/Tの耐性率は世界的には上記のように5%程度.これは現在上昇傾向にあり,25%をこえる地域もある.(日本は多分含まれていない)[2]
  • 血流感染においては複数菌を伴って検出されることも20~40%と多めであり,本症例でもAcinetobacter baumaniiを伴った形で菌血症が発症している.[2]
参考文献
  1. [1]  Clin. Microbiol. Rev. January 2012 vol. 25 no. 1 2-41 1 January 2012
  2. [2]  The Lancet Infectious Diseases (2009) vol. 9 (5) pp. 312-23
  3. [3]  Antibiotics. 2023; 12(5):910.
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何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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