Nocardia asiatica〔ノカルジア〕

Nocardia asiatica〔ノカルジア〕
喀痰
染色像
グラム陽性桿菌(Gram Positive Rod)
グラム陽性桿菌 放線菌: GPR filament
染色の特徴
  • 細長く,フィラメント状
  • 弱抗酸性に染まるため,脱色をゆるくした抗酸菌染色(キヨニン染色)で判別する.:参考画像参照
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: S/T
抗菌薬の待てない人: S/T + AMY OR カルバペネム + AMY
感染部位によっても異なるため,成書を参照されたし
エラー注意
  • 菌種によりS/Tの感受性が大きく異なる.注意.
ポイント
  • Edmund Nocardというフランス人獣医によって1889年に同定されたグループである.当初はウシの病原菌としての同定であった.
  • 放線菌(Actinobacteria:ギリシャ語で光線,放射を意味するακτίς(アクティース)にBacteriaを融合した語)の中でも好気性放線菌に含まれ,通常は土壌内に広く分布する.我々が『土の匂い』と認識するニオイの多くは放線菌の産生する揮発性化合物であるとも言われる.なお,放線菌という分類はかつては形態学的なものであったが,近年はDNAにより決定されているため,この分類に属することは必ずしもフィラメント状の外観を有することを前提としなくなった.
  • 近年,16S rRNA解析を元に分類が大きく見なおされ,かつてNocardia asteroides とされていた群を中心に大きく分類が変化している.[1]本菌はかつてのNocardia asteroides-like株であり2004年に報告された新種である.[2]
  • 発症リスクは『免疫不全』がよく知られているが,その程度によって重症度並びに侵襲性感染症の発現率が異なる.免疫不全にはアルコール依存のようなものから,糖尿病,SLE,肺胞蛋白症,喘息,ホジキンリンパ腫,白血病,肝・心・腎などの臓器移植,HIVが含まれ,近年話題であるのは抗TNF-α阻害薬の使用であろうか.もちろん,その何れも存在しなくとも,感染は成立しうる.[3]
  • 感染部位は播種すれば全身諸臓器にわるが,治療戦略の上で重要であるのは皮膚,肺,脳・眼を含む中枢神経である.
  • 皮膚感染は通常,創部の汚染によるものであり,風土病としての側面をもつ.インドで始めて報告があった後,アフリカ,メキシコ,中南米,東南アジアで発症が確認されている.通常は疼痛を伴わない瘻孔形成が数ヶ月~数年単位で近位の皮膚に拡大していくもの(見た目はMycetomaで画像検索)であり,N. brasilliensisが最も有名であるが,そもそもNocardia以外の菌も多くが原因となりうる.[4]
  • 肺病変は頻度的には最多であり(40%以上)多くが結節影・空洞影を伴い,亜急性以上の長い経過で発症する.肉芽腫性病変を含んで様々な病理学的変化を生じるため,画像的には結核やCryptococcus,アスペルギルスとの区別は困難である.あらゆる種が原因となるが,最多はN. cyriacigeorgicaであり,N. nova complex,N. facinicaと続く.この中ではN. farcinicaがS/T耐性を持っていることに重々注意すべきであろう.[5]
  • 中枢神経病変は基本的には稀である.が,肺病変があれば半数には肺外病変があるとされ(多くは肝であるが),CNS病変は検索されるべきである.だが,発見された場合の予後は不良である.
  • 治療薬の中心はS/Tとされるべきであるが,上記のような耐性株の問題などから,一辺倒になるべきではない.アミカシン,カルバペネム,キノロン(経験豊富なのはシプロフロキサシンで,近年はモキシフロキサシンが好まれる),リネゾリド,ミノサイクリンなどが使用できる可能性のある抗生剤としてノミネートされるが,感染部位・治療期間において大きく選択が異なる可能性があり,詳細は成書に譲る.[5]やハリソン内科学に詳説があり,便利.
参考画像
参考文献
  1. [1]  Clin. Microbiol. Rev. April 2006 vol. 19 no. 2 259-282 1 April 2006
  2. [2]  Jpn. J. Med. Mycol.Vol.48, 73-78, 2007
  3. [3]  Clin. Microbiol. Rev. April 1994 vol. 7 no. 2 213-264 1 April 1994 (50ページ以上あるので注意)
  4. [4]  トラベ・アンド・トロピカル・メディシン・マニュアル 4th edi
  5. [5]  Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of infectious disease 9th edi
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グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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