Streptococcus pyogenes 〔A群β溶連菌〕

Streptococcus pyogenes 〔A群β溶連菌〕
血液
染色像
グラム陽性球菌(Gram Positive Coccus)
グラム陽性連鎖球菌
染色の特徴
  • グラム陽性球菌で、通常長い連鎖状に配置する。(6つ以上は普通連鎖する)
  • ブドウ球菌よりは小さい,らしい.
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: PCG
抗菌薬の待てない人: STSSなどをきたしているなら,CLDM追加を考慮 
テトラサイクリンは耐性多い.
ポイント
  • 『溶連菌』といえばほぼこいつのことを指す,小児から成人,軽症咽頭炎から重症壊死性筋膜炎とかなりバリエーションの広い疾患を引き起こす.
  • 1874年に丹毒・創部感染の起因菌として想定され,1879年には紫斑病+Sepsisの患者血液から分離されている.(Pasteur)最終的に現在の名前になったのは1884年のことである.
  • ヒアルロン酸を主成分とする莢膜を持ち,M蛋白という表面蛋白をもつ一部の莢膜過剰産生株は非常に高い病原性を持つ.というのも,この莢膜の成分は一部が人の結合組織と共通であり,好中球による貪食を免れる事ができるからである.またこのM蛋白は心筋とも類似の構造をとり,コレに対する抗体産生がリウマチ熱と関連しているのではないかと目されている.[1]
  • その他にも多くの外毒素により結合織の融解・血栓形成・補体C5aの破壊・IgGの破壊といった免疫系回避作用を発揮し,時に壊死性筋膜炎など強力な侵襲性感染症を起こす.
  • スーパー抗原も数ある毒素の一つであり,MHCクラスⅡ分子に非特異的に結合し,無秩序なT-cell増殖を活性.過剰な免疫応答を引き起こす.実はコレも,特異的な免疫応答を阻害して白血球から逃れるための手段である.
  • 有名な感染部位としては咽頭炎であり,次いで皮膚軟部組織の感染が多い.今回のような菌血症は基本的には稀な部類に入るが,Streptococcal toxic shock syndromeを来せば50%前後が菌血症に陥る.[2]
  • 菌血症のリスクは小児と成人,高齢者で異なるが,熱傷や手術創などの表皮バリア破壊はほぼ共通しており,そこに『IV drug』や『水痘感染』などの年齢特異的なリスクがかぶさってくるようなイメージである.もちろんステロイドやHIV,DMもリスクとなる.[3]
  • 侵襲性のGAS感染症は日本ではなぜか増加傾向にあり,特定のタイプが多くを占めているようである.[4]
  • 菌血症というカテゴリーでは治療期間には定まったものがなく,一般的に2週間は必要であろうというコンセンサスとなっている.ただ,ソースコントロールがうまく行ったという前提では,その期間全てを点滴静注で行く必要は無いかもしれない.
  • コロニー写真を参考画像に入れておく.血液寒天培地ではくっきりと溶血を示し,裏の文字が見えそうなくらいに赤血球を破壊している.
参考画像
参考文献
  1. [1]  Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of infectious disease 9th edi
  2. [2]  Clin Microbiol Infect. 2006;12(2):156.
  3. [3]  Emerg Infect Dis. 2003 Aug;9(8):970-7.
  4. [4]  Epidemiol Infect. 2015 Mar;143(4):864-72
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グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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