Rothia mucilaginosa〔ぬるぬる球菌〕

Rothia mucilaginosa〔ぬるぬる球菌〕
血液
染色像
グラム陽性球菌(Gram Positive Coccus)
周辺にムコイド様の物質が見える
染色の特徴
  • 小型のグラム陽性球菌でブドウ状となる
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: ABPC
抗菌薬の待てない人: VCM
極まれにペニシリン耐性がある
ポイント
  • 1900年にStomatococcus mucilaginosusとして同定され[1],1982年に現在の名前に変更となった菌種である[2].Stomatococcusはギリシャ語とラテン語で『口に関連した球体』という意味になり,mucilaginosusはラテン語で『ぬるぬるの』という意味をもつ.Rothiaは本菌の基礎研究を行った微生物学者にちなんで命名されている.
  • 名前の通り口腔内の常在菌の一種であり,多くは歯科感染症を発生させる.ただ,免疫不全,特に好中球減少(±口腔粘膜障害)が発生していると血流感染となり,関節炎やIE[3]を含む多彩な感染巣を形成する.
  • 特にFNを背景として出現した場合には,かなり高率にフルオロキノロンに耐性であることが知られており[4],これはFNにおけるキノロン予防投薬下であっても感染症を発生させうることを示している.
  • 常在細菌のため,コンタミネーションの可能性は常にあるが,FN,CVC挿入,腸あるいは口腔粘膜の障害がある患者において発生した場合には真の菌血症として捉えるべきであろう.(もちろん2セットから検出があった場合には疑いの余地はない.)
  • グラム染色における形態は比較的小粒のグラム陽性球菌で,clusterを形成する.本症例ではご覧のように周囲にムコイド様のグラム陰性のマトリックスを形成しているのが確認された.(この所見が一般的であるのかどうかは当方まだ調べきれていない.随時更新の予定)
  • 発育は比較的遅く,コロニーの外観はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌に類似するため,文脈によってはCNS扱い検出がなされていない可能性はある.
  • 実際にコロニーをつついてみると,ガムかグミのように粘って,培地表面に強く接着している.CNSが疑われるコロニーでも,このような特徴が見られた場合には本菌も考慮に入れるべきであると考える.
  • 抗菌薬は多くはペニシリンやその他βラクタムに良好な感受性を示す.ただ,前述のようにフルオロキノロンは使用不能な可能性があり,ごくまれにペニシリン耐性も報告があるので,患者の状態次第ではグリコペプチド系の使用も許容されると考える.
参考文献
  1. [1]  Int. J. Syst. Bacteriol. 1982; 32:374-377.
  2. [2]  Int J Syst Evol Microbiol 2000; 50:1247-1251.
  3. [3]  J. Clin. Microbiol. 51:1629–1632.
  4. [4]  Eur J Clin Microbiol Infect Dis . 1998 Dec;17(12):890-2.
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グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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