Staphylococcus epidermidis〔表皮ブドウ球菌〕

Staphylococcus epidermidis〔表皮ブドウ球菌〕
血液
染色像
グラム陽性球菌(Gram Positive Coccus)
染色の特徴
  • ブドウの房状に配置.GPC-clusterと呼ばれる.
  • 黄色ブドウ球菌との区別は,熟練者には可能であるようだが,管理人には無理.
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: CEZ
抗菌薬の待てない人: VCM OR DAP
かなりの割合でメチシリン耐性化しており,βラクタム剤の使用にはハードルがある.
詳しくはポイントを.
エラー注意
  • 検出=起因菌といえないタイプの菌である.
  • 血液培養であれば,1セットだけの陽性は治療対象にならないかもしれない.
ポイント
  • 血液培養2セットの意味を強く感じさせてくれる菌種である.文字通り表皮に常在し,血液培養採取時の消毒が不十分であった時などにコンタミネーションしてくる.1セットの陽性はそのまま菌血症でない事が多い.(具体的には,2セット中1セット陽性であった場合のコンタミネーション率は94.8%である.[1])
  • 表皮という生息地に居る為,8つのイオンExchangerと6つの浸透圧物質輸送システムを備えており,電解質濃度変化ならびに浸透圧変化に極端に強い.[2]
  • また,皮膚に常在するため,Hostの免疫系を回避するシステムも持ちあわせており,自然免疫には好中球の貪食を回避するメカニズムがある.一方,獲得免疫も本菌種にはさほど効果がない.これは抗体産生が充分にされていてもなかなか本菌を体内からクリアできない事実と符合する.これには表面の高分子が抗体の認識を阻害しているといった説や,そもそも人間の免疫は常在菌に強く反応しないようにできている,といった説が多数展開されているが,確信には至っていない.[2]
  • メチシリン耐性に代表される多数の薬剤耐性を発現する.常在菌という性質から,本菌が多くの薬剤耐性を有しているということはそのまま抗生剤の不適切使用のパラメータとなる.また,恐ろしいことにプラスミド経由にそれらを黄色ブドウ球菌に渡すことが報告されており,一部のCA-MRSAでこのメカニズムが示された.[3]
  • なお,本菌をふくむコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)は細菌検査で感受性と出てもβラクタムで治療不良となる可能性がある.というのは,mecAというメチシリン耐性遺伝子を持っていても,感受性ではβラクタム感受性と出てしまうことがあるからである.より確信を持ってβラクタムを使用するにはmecAを遺伝子学的な方法で検出することであるが,残念ながら出来る施設は相当に限定される.実際にはDisc法などで追加検査を行う必要がある.[4]
  • 上記のため,『Cluster型のGPCが血培陽性となった時』にVCM単剤とするか(MSSAの場合はVCMはCEZに治療効果が劣る[5])それともVCM+CEZとするかという議論が近年起こりつつある.
参考文献
  1. [1]  Clin Infect Dis. (1997) 24 (4): 584-602.
  2. [2]  Nat Rev Microbiol. 2009 Aug; 7(8): 555–567.
  3. [3]  Lancet. 2006 Mar 4; 367(9512):731-9.
  4. [4]  レジデントのための感染症診療マニュアル第3版 青木眞
  5. [5]  Antimicrob Agents Chemother. 2007 Oct; 51(10): 3731–3733.
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グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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