Staphylococcus aureus〔黄色ブドウ球菌〕

Staphylococcus aureus〔黄色ブドウ球菌〕
関節液
染色像
グラム陽性球菌(Gram Positive Coccus)
染色の特徴
  • ブドウの房のように配置しClusterと表現する。
  • 大型のグラム陽性球菌。
頻度
★★☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: ABPC/SBT OR CEZ
抗菌薬の待てない人: VCM
化膿性関節炎であり,整形外科的介入はマストである.
エラー注意
  • MRSAかどうかは疫学で判断するしか無い.
ポイント
  • 整形外科医の忌み嫌う,人工関節感染である.これを防ぎたいがために,整形外科の手術はいわゆる『宇宙服』を使用するわけだが,それでも一定確率での発生がある.
  • 糖尿病・肥満(BMI>30)・自己免疫疾患による免疫抑制治療などが患者のリスクとされているが,これは創傷治癒が遅れる傾向にある,という意味であり,人工関節関連に限らずあらゆるSSIのリスクである.[1]
  • また,手術が長時間で複雑になればなるほど高リスクである.
  • 術後の感染リスクとしては尿路感染による菌血症が解析されているが,頻度は実質0.1%程度である.[1]
  • 本症例はMRSAによるものだが,実際に発生する頻度としてはやはり黄色ブドウ球菌が最も多く,22~40%程度を占める.次点で表皮ブドウ球菌の19%,混合感染19%,β溶連菌9%,好気性GNR8%,嫌気性菌6%,起因菌不明が12%程度となる.[2]
  • 関節液培養は人工物のない化膿性関節炎に比して検出力が高く,85%程度で陽性となる.[1]
  • 対して,Gram染色は1/3程度の症例でしか陽性化しない.[3]
  • 治療戦略,特に初期の計画は非常に重要である.というのは,何れの形にせよ,治療失敗は感染部位の機能的予後を大いに損ない,筋力を低下させ,DVTの発生リスクを上昇させるからである.
  • 2 stage strategyという戦略が一般的には取られる.これはインプラントの除去後2週間の抗生剤点滴加療後に再留置し,内服加療を長期に渡り続ける,というもので,インプラントの除去と再留置を2回に分けて行うことからそう呼ばれる.1回で除去と再留置を行う手法は1 stageであるが,採用できる症例は個別性が高く,慎重に検討されるべきであろう.
参考文献
  1. [1]  Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of infectious disease 9th edi
  2. [2]  Clin Infect Dis. 1998 Nov;27(5):1247-54.
  3. [3]  The diagnosis of periprosthetic joint infections of the hip and knee. Guideline and evidence report. Adopted by the American Academy of Orthopaedic Surgeons Board of Directors, June 18, 2010.
  4. [4]  ↑ガイドラインで,290ページくらいあります.
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グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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