Corynebacterium kroppenstedtii〔あぶらが好き〕

Corynebacterium kroppenstedtii〔あぶらが好き〕
膿瘍:乳腺由来
染色像
グラム陽性球菌(Gram Positive Coccus)
基本的にはその他のCorynebacterium同様のGPR バナナの房のように配置する.
染色の特徴
  • 膿瘍検体上ではGPCに見えることもある
  • この検体では若干染色が悪い.おそらく検体に含まれる脂肪成分の関係もあるだろう.
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: DOXY OR AZM
多くは亜急性~慢性経過で生命予後に直接関わることはまれ
ポイント
  • ドイツの高名な微生物学者でActinomyces属に関して多大な功績のある人物のReiner M. Kroppenstedtの名前を取って命名された菌である.
  • もともとは高齢女性の痰から単離・検出されたもので,病原性などに関しては未知のところも多かった.[1]
  • が,近年において,本菌は乳腺膿瘍並びに肉芽腫性乳腺炎の膿瘍検体から検出が相次いでおり,病原体としてかなり重要度の高いものであると考えられる.
  • 本菌はCorynebacteriumの仲間に当たるが,通常なら細胞壁に含有される脂質(ミコール酸)を生成する遺伝子を欠損してしまっている.そのため,lipophilic;親油性つまり発育に外部から脂質を取り込むことが極めて重要となる.[2]
  • 培養は血液寒天培地にTween 80という界面活性剤を塗布することで発育を促進することができる.この薬剤はその他の菌種に対しても細胞膜からの栄養成分取り込みを活性化するなどの機序で発育促進を行うことができるが,本菌に対しては脂質であるオレイン酸の供給源としての意味が大きい.参考画像にTwee80添加と非添加で同時間培養したコロニー写真を載せておく(溶血が起こっている方がTween80添加のもの.Corynebacteriaは基本非溶血性で,Tween80によって溶血が起こっている.)
  • 微生物学的同定は親油性を前提として生化学同定を行えばできないこともないが,臨床微生物検査においては本菌のデータがテンプレートにないことも多い.そのため,実臨床での同定は多くは遺伝子検査や質量分析:MALDI-TOF MSに依存している.
  • 臨床検体からの分離は前述のように乳腺組織からのものが大半を占めている.肉芽腫性乳腺炎での検出が多く,抗菌薬治療により改善することもあることから疾患との関連性が指摘されている.が,肉芽腫性乳腺炎は自己免疫機序で発生することもあり,脂肪成分の多い特徴から二次的なコロナイゼーションを否定できないため,病原体と断定まではしにくいのが実情である.
  • 薬剤感受性はあまり問題にならないことが多い[2].ただ,βラクタムは乳腺を始めとした脂肪組織への移行が難しく,経口投与において難治化・再燃を繰り返す例は本邦でも確認されている.[3,4]
  • 上記の事情から,治療にはDOXYやマクロライドなど脂肪組織への移行性が保ちやすいものが頻用される.
  • なお,乳腺からの検体において塗抹などで本菌を見つけるのは困難であることが多い.今回の検体においては脂肪分(?)による油滴のような空胞構造の中に本菌のクラスターを確認することができたので,そういった場所を中心にさがすのも良いかもしれない.
参考画像
参考文献
  1. [1]  Int. J. Syst. Bacteriol., 48 (1998), pp. 1449-1454
  2. [2]  Int. J. Med. Microbiol., 294 (2004), pp. 413-416
  3. [3]  日臨外会誌 74(10),2679―2684,2013
  4. [4]  日本臨床微生物学雑誌 Vol. 22 No. 2 2012. 57
URL :
TRACKBACK URL :

何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

osaka city university