Acinetobacter baumannii〔アシネトバクター〕

Acinetobacter baumannii〔アシネトバクター〕
血液
染色像
グラム陰性桿菌(Gram Negative Rod)
染色の特徴
  • 比較的小型のGNR
  • 抗菌薬などの影響で染色性や形態にかなり大きな差が出る
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: CFPM OR LVFX OR MINO
抗菌薬の待てない人: MEPM OR PIPC/TAZ
緑膿菌に準ずる耐性を持つため,アンチバイオグラムなどでの確認を入念に
ポイント
  • 現在のAcinetobacter属の定義は,グラム陰性で,偏性好気性,カタラーゼ陽性,オキシダーゼ陰性,ブドウ糖非発酵性,非運動性の短い多形性球菌である.『多形』が意味するとおり,本菌はGram染色においても多様な形態を示し,かつ染色性も多彩となる.
  • とはいうものの,Acinetobacter属の分類は厳密に行うことは全ゲノム解析などを行わない限りは極めて難しく,微生物検査室においてはAcinetobacter baumannii complexとまとめて表記されることが多い.この集団は微生物学的にはAcinetobacter calcoaceticus-Acinetobacter baumannii complexと呼ばれ,ヒトの疾患に関連する5つのAcinetobacter種(A. baumannii,A. pittii,A. nosocomialis,A. seifertti,A. dijkshoorniae)と,土壌からよく分離され,ヒトの病原体としては報告されていない1つの環境種(A. calcoaceticus)が含まれている.[1]
  • MDR A. baumanniiによる人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、依然として重症患者の高い死亡率の原因となっている[2].欧米ではVAPの8~14%を占め,アジア,中南米,中東の一部の国ではさらに比率が高い(19~50%以上).[3]
  • また,今回のような血流感染症も極めて重要であり,カテーテル関連や人工呼吸器関連肺炎が主要なEnteryである.死亡率は報告によっては40%に上る.[4] Acinetobacterによる院内感染は様々なリスクファクターが同定されているが,特に血流感染にかぎれば悪性腫瘍が最も大きく,発生した場合の死亡率も高い.しかもこの死亡率は悪性腫瘍の部位やNeutropeniaの程度よりも,治療開始の遅れやデバイス管理に影響されていたとされる.困難も伴うが,血管内デバイスを中心とした菌血症のマネジメントに全力を尽くすべきである.[5]
  • Acinetobacterの病原因子は宿主の細胞死を誘導する外膜蛋白,カルバペネム耐性にも関与するポーリン構造,リポ多糖,バイオフィルム形成に関わる因子,リン脂質を分解して細胞への侵入を容易にするホスホリパーゼなどあまりに多彩であるため,レビューを参照されることを推奨する.なお,本菌はこれらの病原因子の発現のために遺伝子のかなり大きな部分を割いていることが明らかになっている.はた迷惑な話だ..[6]
  • 薬剤耐性は本菌の感染マネジメントを行う上では極めて重要となる.というのも,本菌は海外を中心にMDRどころでなくXDR,PDR(臨床的に使用可能なすべての薬剤に対して耐性)という株も検出されているからである.薬剤感受性は施設によって高度に異なるため,一概に治療に関してアドバイスを行うことは難しい.
  • βラクタムに対する耐性は染色体上にAmpCを保有していることから,アミノペニシリンならびに第2世代までのセファロスポリンは使用できない.その他にもAmbler分類のClassA,B,C,Dすべてのβラクタマーゼを保有する可能性があり,特にKPC,NDM,OXAなどのカルバペネマーゼは治療において脅威となる.
参考文献
  1. [1]  Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 2015, 65, 934–942.
  2. [2]  Eur. J. Pharm. Sci. 2019, 136, 104940
  3. [3]  Semin. Respir. Crit. Care Med. 2017, 38, 311–325.
  4. [4]  Acta Neurochir. (Wien) 2016, 158, 1647–1654.
  5. [5]  Clin. Microbiol. Infect. 2016, 22, 352–358.
  6. [6]  Antibiotics (Basel) . 2020 Mar 12;9(3):119.
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グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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