Fusobacterium necrophorum〔壊死桿菌〕

Fusobacterium necrophorum〔壊死桿菌〕
血液
染色像
グラム陰性桿菌(Gram Negative Rod)
多型性あり
染色の特徴
  • 通常Gram陰性の桿菌である.
  • 抗菌薬暴露なしでもこのように伸長したり,短くなったりと多型性に富む
  • 染色性がまちまち
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: ABPC
抗菌薬の待てない人: MEPM
最大20%程度でβラクタマーゼ産生があるとのこと[1]
エラー注意
  • 嫌気性菌のため,通常の培養では捕まえにくい
ポイント
  • 偏性嫌気性菌で,主として人間の口腔内,歯の周辺に存在する.[1] Fusoとはfusiform(紡錘形)という意味でつけられた名前ではあるものの,本菌にはその特徴はそこまで強くは現れず,むしろ近縁のF. nucleatumが典型的な紡錘形を呈する.
  • 歴史的には動物の感染症の起因菌として非常に重要であり,最初に本菌が同定されたのはウシのジフテリア様疾患であった.[1]
  • 本菌で最も恐れられる感染症と言えば,Killer sore throatの一つとして知られるLemièrre's syndromeである.歯性感染症から頚静脈の血栓性静脈炎を経た敗血症性塞栓症として知られるこの病態は,Lemièrre氏がはじめてケースシリーズとして報告したものである.[2]
  • 事実,Lemièrre's syndromeのシステマティックレビューでは起因菌のほとんどを本菌が占めており,その病原性の高さが垣間見える.[3]
  • また,直近では扁桃炎の起因菌としても想定されており,咽頭痛で外来受診した症例や扁桃炎がすでにある症例でRT-PCRなどの遺伝子学的な方法を用いて検索すると,コントロールよりはかなり高い割合で本菌が検出されるようである.[4]ペニシリンのイマイチな扁桃炎は一定確率で関与があるかもしれない.
  • 抗菌薬の感受性は一般的に良くペニシリンでも充分に対応可能である事が多いが,約20%の症例においてはβラクタマーゼの産生が認められる.その場合はスルバクタムなどのベータラクタマーゼ阻害薬配合のものがよいであろう.[1]なお,MNZには100%感受性である.
参考文献
  1. [1]  Clin Microbiol Rev. 2007 Oct; 20(4): 622–659.
  2. [2]  On certain septicemias due to anaerobic organisms. Lancet. 1936;1:701–3.
  3. [3]  Laryngoscope. 2009 Aug;119(8):1552-9. doi: 10.1002/lary.20542.
  4. [4]  Clin Microbiol Infect. 2007 Jul;13(7):695-701. Epub 2007 Apr 2.
  5. [5]  special thanks to Dr miyazato in OGMC GIM&ID
URL :
TRACKBACK URL :

何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

osaka city university