Pasteurella multocida〔パスツレラ〕

Pasteurella multocida〔パスツレラ〕
血液
染色像
グラム陰性桿菌(Gram Negative Rod)
小型で多形がやや見られる
染色の特徴
  • 染色性が悪く,小型で,Haemophilus influenzaeと区別が難しい
  • コロニーもHaemophilus influenzaeに類似する.
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: ABPC/SBT
抗菌薬の待てない人: MEPM OR PIPC/TAZ
多くはペニシリン含め抗菌薬感受性が良い
が,複数菌感染の可能性がある
ポイント
  • パスツレラはLouis Pasteurから,multcidaはラテン語で『多くの』を意味するmultusと『致死的な』を意味するcaedoをあわせたもので,転じて『多種族に対して病原性のある』という意味をもたせている.
  • Gram染色においてもコロニー形態においてもHaemophilus influenzaeの区別は難しいが,一部に『栗の花臭』という独特の臭気を発するものがあることと,強毒性のものはコロニーが僅かに蛍光を帯びるという特徴がある.管理人は残念ながら栗の花を嗅いだことがないので,よくわからなかった..
  • かなり知名度の高い人獣共通感染症であり,猫においては100%に近い保菌率がある.犬にも75%近く常在していることがわかっている.[1]これはその他のZoonosisに比して圧倒的に高い病原体保有率であり,注意を要する. なお,この他にネズミ・馬・うさぎなどの動物も感染源になる.[3]
  • 動物由来の創部感染症の起因菌としてもっともメジャーであり,その他複数菌とともに検出される例も多い.
  • あまり話題に上らないが,多糖類による莢膜を持っており,これによって宿主の免疫反応を回避する.その他特有の毒素など多くの病原因子を保持しており,免疫抑制患者には驚異となる.[3]
  • 軟部組織感染症の他によく見られるのは呼吸器感染症で,肺炎・肺膿瘍などの病型を取る.その他骨髄炎・IE・CAPD腹膜炎[4](多くは腹膜透析手技にペットが介入?したもの)が知られている.
  • 薬剤感受性は概して良好であり,狭域ペニシリンで十分な場合が多い.ただし,創部感染など単独菌による感染症ではないパターンがほとんどであるため,その他嫌気性菌のカバーも勘案した選択を行うよう留意する.
参考文献
  1. [1]  愛玩動物の衛生管理の徹底に関するガイドライン 2006 環境省
  2. [2]  Clin Microbiol Rev. 2013 Jul;26(3):631-55.
  3. [3]  BMC Infect Dis. 2018 Aug 23;18(1):420.
  4. [4]  BMC Nephrol 21, 102 (2020).
URL :
TRACKBACK URL :

何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

osaka city university