Neisseria menigitidis〔髄膜炎菌〕

Neisseria menigitidis〔髄膜炎菌〕
髄液
染色像
グラム陰性球菌(Gram Negative Coccus)
小型の双球菌で腎臓型に配置する
染色の特徴
  • 染色性は比較的よい
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: 待てる状況はまずない.
抗菌薬の待てない人: CTRX OR 感受性があればPCG
間々キノロン耐性の報告がある
ポイント
  • 米国における細菌性髄膜炎として2番めの頻度があり,非常に進行が早い恐るべき病原体の一つである.比較的若年者において発症も死亡も高頻度に観察される.(そのため小児領域での報告・集計が多め)
  • 冬期に流行する傾向があり,インフルエンザの流行と重なるため,初期診断が重症のインフルエンザとされていることが稀でなく,また,咽頭痛症状の先行により,溶連菌性扁桃炎と初期診断をうけていることも多い.ただ,総じて重症感は強く,『これまでで一番きつい』という表現がされる場合には要注意である.
  • 小児ならびに青年期の髄膜炎菌敗血症を対象に早期診断を検討した研究[1]では,24時間で死亡するような重症例においても,発症4~6時間は非特異的症状にとどまり,初回診察で二次医療機関への紹介があったものは51%に過ぎない.22時間前後で典型的な髄膜炎症状,全身性紫斑,意識障害を呈するとされるが,時間経過を考慮するにこの所見の出現は極めて予後不良である.8時間前後で,足の痛み,手足の冷感,普通でない皮膚色が観察されるため,早期診断にはこれらも参考にする必要があると思われる.
  • 痙攣,巣症状などの中枢神経症状は肺炎球菌やインフルエンザ桿菌に比して多くはない.が,髄膜刺激症状は同様に出現しやすいことがしられている.[2]
  • 抗菌薬などによる加療が奏功しても,敗血症期に大量に作られる免疫複合体による合併症も多く見られるが,髄膜炎として特異的なのはconus medullaris syndrome(脊髄円錐症候群:胸椎以下の運動感覚障害)や第Ⅵ,Ⅶ,Ⅷ脳神経障害と言われている.[3][4]
  • どこをみても強調されることであるが,細菌性髄膜炎は分単位での治療の遅れが予後に直結する疾患と言える.[5] 詳細は成書に譲るが,本疾患が想定される場合に腰椎穿刺あるいは頭部CTのために抗菌薬投与が遅れることはあってはならない.
  • 抗菌薬加療は初手としては第3世代セファロスポリンが推奨される.もし感受性が良好であると分かれば,PCGにでも十分に加療できる.[6]
  • なお,本疾患が発覚した場合においては濃厚接触者は一般人口の500~800倍の発症リスクを負うため,予防的抗菌薬投与が推奨される.[7]
  • 製剤の選択,投与方法は成書に譲るが,大きくはキノロンとリファンピシンが使用され,日本においてもキノロン耐性が報告されている事実[8]を鑑みるに,リファンピシンを優先したほうが良いのかもしれない.
  • こちらの写真は大阪急性期・総合医療センターよりご提供いただきました.非常に希少かつ重要な写真をありがとうございました.
参考文献
  1. [1]  Lancet. 2006;367(9508):397.
  2. [2]  Pediatr Clin North Am. 1976;23(3):541.
  3. [3]  N Engl J Med. 1972;286(16):882
  4. [4]  Pediatr Clin North Am. 1976;23(3):541.
  5. [5]  J Infect. 2007;54(6):551.
  6. [6]  Up to date:Treatment and prevention of meningococcal infection 2020/1/7
  7. [7]  MMWR Recomm Rep. 2013;62(RR-2):1.
  8. [8]  感染症学雑誌2007 年 81 巻 6 号 p. 669-674
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グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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