Cardiobacterium hominis〔HACEKシリーズ〕

Cardiobacterium hominis〔HACEKシリーズ〕
血液
染色像
グラム陰性桿菌(Gram Negative Rod)
小型の短桿菌
染色の特徴
  • 花が咲いているような形に配置する:roset cluster
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: CTRX
抗菌薬の待てない人: CTRX+GM
薬剤耐性は一般には殆どないとされる
ポイント
  • ギリシャ語で心臓を意味するKardiaとラテン語で桿菌を意味するbacteriumが合わさって名付けられている.hominisはラテン語で『人間』を意味しており,名前の時点で心臓にイタズラするつもりがひしひしと伝わってくる.
  • 初めての報告は1962年のIEでの症例であり,その際はPasteurella-likeと表現されている[1].その2年後にCardiobacteriumという名前が付けられた[2].血液培養では連鎖しているように見えたり,花が咲いたような塊を作るのが典型的.
  • HACEKという稀な感染性心内膜炎の原因菌グループとして知られ,現在の血液培養技術を以てしても3~5日程度は培養陽性に時間を要するのが通常である.グラム染色での染色性はまちまちで,ときにグラム陽性に染色されることもあるようだ.
  • 基本的には上気道(口腔内など)の常在菌として認知されており[3],まれに膣粘膜などからも検出される[4].この菌が定着しやすくなるようなリスクは特定されていない.
  • 他のHACEKとも一部共通した特徴であるが,病原性が非常に低くIEを発生しても全身症状があまり顕著でなく,診断までに長時間を要しやすい.全身症状の出現から診断までに12ヶ月を要した症例もある[5]し,比較的最近の報告[6]でも,全身症状発現から診断まで1ヶ月以上を要することは多いようだ.
  • 症例数が非常に少ないので,正確な比較は難しいが,死亡率という意味ではHACEK IEは一般的なものよりも低い.しかしながら,これらを原因とする場合,中枢神経合併症が多いとされており,楽観視できない病気であることは間違いない[6].
  • 薬剤耐性の報告はほとんどない.βラクタマーゼ産生も非常に稀とされているが,報告が全く無いわけではないのでIE治療にはCTRX±GMが推奨される.βラクタムが何らかの理由で使用不能な場合,フルオロキノロンもまずまずの選択肢となる.(使用する場合は,点滴キノロンの副作用としての不整脈に注意する必要があるだろう.)
参考文献
  1. [1]  N Engl J Med 1962;267:913-916.
  2. [2]  J Microbiol Serol 1964;30:261-272.
  3. [3]  J Infect Dis 1964; 114:503-505
  4. [4]  J Bacteriol 1968;95:1175.
  5. [5]  Boll Ist Sieroter Milan 1987;66:489-90.
  6. [6]  PLoS One. 2013 May 17;8(5):e63181.
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グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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