Serratia marcescens〔セラチア〕

Serratia marcescens〔セラチア〕
血液
染色像
グラム陰性桿菌(Gram Negative Rod)
染色の特徴
  • 小型GNRであるが,両端は細くならない
  • 大腸菌よりは小型になることが多い.
頻度
★☆☆
抗菌薬
抗菌薬の待てる人: CTRX
抗菌薬の待てない人: MEPM OR CFPM OR LVFX
AmpC型βラクタマーゼを持っているため,第三世代セフェムは無効かもしれない.
数%でメタロβラクタマーゼを所有する.
エラー注意
  • 腸内細菌科との区別は難しい.
ポイント
  • イタリアでコーン粥を赤く変色させたことがきっかけで発見されたとされる菌である.命名は発見者ではなく,蒸気船の開発者であるSerafino Serratiにちなんでつけられた(尿の解説に同じ).[1]
  • Enterobacter,Pantoea,Citrobacter,Hafniaと合わせ,腸内細菌科に属するものの,通常は人の腸内には常在せず,健康な宿主に感染を起こすことは少ない.院内感染の事例が大半である.[1](ここまで尿の解説と同じ)
  • (ここから尿の解説と違う)菌血症としての発症は,尿路などあきらかなエントリーがない場合に関しては,医原性を強く疑う場面である.
  • 事実,有名なヘパリン生食の汚染事例[2]の他にも,注射シリンジ,プロポフォール,フェンタニル,透析カテーテルの汚染[3],血管内デバイス(圧感知機)の汚染など,菌血症のソースになりうる汚染の症例,アウトブレイクの事例は枚挙に暇がない.
  • 菌血症となった場合は死亡率も(報告によってやや異なるものの)40-50%あり,決して無視できるものではない.[4][5]同じ病棟で相次ぐ場合には,感染管理の視点に立ってみるのも大切である.
  • 消毒薬のなかなど意外な場所にも潜むことで有名であるが,逸話的に語られるエピソードとして,EDTAスピッツを汚染して偽性菌血症の元になった(偽のアウトブレイク事例となった)という話もある.[6]とにかく油断ならないやつである.
  • 抗菌薬感受性は尿のところでも述べたが,ここではもう少し詳説する.一般的に,ABPC,ABPC/SBT,CEZなど初期のセファロスポリン,CLDM,そしてコリスチンはSerratiaにはほぼ効かないと考えて良い.[7]
  • 第3世代セフェム以上スペクトラムのβラクタム薬に対しては,AmpC型βラクタマーゼが猛威を振るい,治療中に耐性化してしまうことは珍しい現象とは言えないが,それ以上の薬剤耐性も発生しうる.ESBLを染色体に持っている株や,メタロβラクタマーゼを産生する株もすでに報告があるのだ.
  • アミノグリコシド系も修飾酵素を発する株にはあまりいい選択肢とは言えない.そのため,一般的にGNRに対して使用できる抗菌薬はことごとく『耐性化しうる』ので,各施設でのアンチバイオグラムはより重要な意味を持つのである.
  • ちなみに,キノロン系,S/T合剤は感受性である確立が非常に高いと言われている.感受性確定後であれば,これらによる治療も選択肢となりやすいのは,特にβラクタム薬へのアレルギーのある患者においてはありがたい話である.[7]
参考文献
  1. [1]  Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of infectious disease 8th edi
  2. [2]  Jpn J Infect Dis. 2004 Oct;57(5):189-92.
  3. [3]  Nefrologia. 2016 Nov - Dec;36(6):667-673. doi: 10.1016/j.nefro.2016.05.009. Epub 2016 Aug 29.
  4. [4]  J Microbiol Immunol Infect. 2005 Oct;38(5):350-7.
  5. [5]  J Microbiol Immunol Infect. 1998 Sep;31(3):171-9.
  6. [6]  Lancet. 1976 Aug 28;2(7983):455-9.
  7. [7]  Clin Microbiol Rev. 2011 Oct; 24(4): 755–791.
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何かあれば!

グラム染色の前書き

 風邪にクラビット、肺炎にセフトリアキソン、尿路感染にセフメタゾール...?本当にその抗菌 薬は必要だろうか?その処方は安心を買うためのものだろうか?耐性菌のリスクをどう評価するか? グラム染色は、そんな抗菌薬選択の答えを導くことができる。グラム染色(Gram Stain)をマスターし て、あなたの日常診療の強力に補助するツールを身につけよう。

グラム染色とは…?

 そもそも、グラム染色(Gram Stain)とは、細菌等を染色液によって染め、分類する方法である。名前の由来は1884年にデンマークの医師ハンス・グラムにこの染色法が発明されたことによる。日常診療やERで簡易に施行できるが、臨床での抗菌薬の決定や、治療効果の判定に大きな根拠となる。感 染症内科は言うまでもなく、日常臨床に携わるプライマリ・ケア医や総合診療医、家庭医にも重要な手技である。グラム染色(Gram Stain)は研修医のうちから習熟することが望まれる。

グラム染色のHPについて

 当HP「グラム染色(Gram Stain)」には、グラム染色(Gram Stain)の全てを詰め込んでいる。グラム染色(Gram Stain)の手順から染色像の判定、そして抗菌薬の決定から治療効果の判定までをできるだけ分かりやすく解説したつもりである。また、もしわからなければ、当方に直接相談できる窓口も設けた。どんどん相談してほしい。当ホームページ「グラム染色(Gram Stain)」を少し巡回された方はすぐに気づかれたとは思うが、マニアックなグラム染色像もふんだんに盛り込み、それぞれの菌についてはこころを込めてたくさんのポイントやトリビアを参考文献を付して提示した。患者さんが特殊な感染症にかかった時はもちろん、読み物としても楽しんで欲しい。

みなさまの日常診療の役に立て、少しでも患者さんのためになれば幸いです。

グラム染色(Gram Stain)管理人 代表 麻岡大裕(感染症内科)
平井孝幸(膠原病内科)、濱口政也(総合内科)、松島秀幸(膠原病内科)、植田大樹(放射線科)

大阪市立大学 細菌学教室 公認

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